猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

あちきを離さないで ~Never Let Me Go(前編)


4月12日。
チャールトンから連絡あり。
正式オファー。今シーズンをふくめて2年契約とのこと。
「やったにゃ」と猫さんはだいこうふん。「おめでとう。猫の一念、岩をもとおすだにゃ」

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守るべきクラブ哲学は――
・攻撃的なフットボール
・ポゼッション重視
・若手選手を獲得して起用する
・クラブのユースシステムを活用して若手を育成する

求めるものと、求められるもの。
クラブときみはおなじ場所をめざしている。

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クラブハウスを訪れ、カトリン・メーラーさんにあいさつ。
そのあとはコーチやスタッフとのミーティング。
すばらしいスタジアム、バルセロナ的なユニフォーム、チームの誇るユース設備。
提携クラブもすごい数ですね、ときみは案内してくれたスタッフに言う。
「そうですね。ベルギー、スペイン、ドイツ、ハンガリー。そのなかでもスペイン2部のADアルコルコンレアル・マドリードを4-0で破ったことで有名です。ここに所属する選手については、うちに優先交渉権があります。レンタル選手を送りこむこともできますよ」
ふんふん。
「でもやはり、いちばん結びつきがつよいのは、ベルギー1部のスタンダール・リエージュです。ごぞんじのとおり、2013年の買収劇で、チャールトンのトップはベルギーの富豪デュシャートレさんにかわりました。あのひとはもともとスタンダールのトップですからね。この提携についてはいろいろな考えがあると思いますが、若手の宝庫ベルギーの逸材をレンタルで獲得できるのはわるいことではありません」

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提携先の一覧。スタンダール・リエージュだけは、立場はむこうが上

移籍のうごきを確認すると、前任者がおかしなことをしていた。
有望な若手のおおくが、格安で放出されるか、長期レンタルに出されていたのだ。
とくに残念なのが、はえぬきのふたり。ディフェンダーのジョー・ゴメスと、フォワードのカーラン・エイハーン・グラント。
さっそく猫さんに電話をかける。
「たしかににゃ。ゴメスはプレミアのクラブもねらう逸材だし。2部のライバルにかるがると放出していい選手ではないよね。エイハーン・グラントだってそうだし」
ふたりを育ててみたかったな……。
「右サイドバックの実力者クリス・ソリーも出されちゃってるんでしょ? 低迷するわけだにゃ」
このあと外で食事をする予定の、ひとりといっぴき。日本食レストランを予約していた。
「ごめん。じつはちょっと出られないんだ。あたらしく入ったバイトのひとが急にこられなくなっちゃって」
はたらき者のスポールティングさんのこと? どうしたの?
「銀行強盗の現行犯でつかまったにゃ。名前も偽名だった。ほんとうの名前はジョン・クレイだって」

グリニッジ天文台ちかくの日本食レストラン「Ka・Zu・O」。
きみはそこでひとりで食事をしている。
15ユーロ(約2000円)もするカツ丼は、ガソリンを固めてコーヒーをかけたような味。
でも、ふしぎとそれが気にならない。クラブハウスを出てからずっと、むねのなかがもやもやしている。落ち着かない。
なぜだろう?
のぞみどおり、願いどおりにチャールトンのかんとくになったのに、なにかが引っかかる。
なにかが足りない。
なんだろう、これは。

デザートは「日本いしぐろプリン」。
プリンをスプーンですくったとき、そのしゅんかん。
もやもやが、ことばになる。
それは――。

もっとうまくやれたはずなのに、でしょ?」と前方から女性の声。
顔をあげると、むかいの席に、ほっそりとした身体の黒猫さんがすわっていた。
グラスワインの赤を片手に。
うつくしいけれど、つめたい笑みを浮かべて。
「その気持ち、わかる」と黒猫さんは言葉をつづける。「もっとはやく、もっとスムースに。どんなことだってできるでしょうね。もしも、もういちどやり直すことができるのなら」