猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

東の風が吹いてきたね、ワトスン

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「東の風が吹いてきたね、ワトスン」
「違うだろう、ホームズ。とても暖かいよ」
「ワトスンときたら! この有為転変の時代にあっても、きみだけは変わらないね。でもやっぱり、東の風が吹いてきたんだよ。英国にはまだ一度も吹いたことのないような風が。冷たい、厳しい風になるだろうな。吹きすさぶその風のなかで多くのものが枯れてしまうかもしれない――」
~『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』(アーサー・コナン・ドイル著、日暮雅通訳)より~


ハイドFCにも東の風が吹いてきたのかもしれない。
猫さんの朗読に耳を傾けながら、きみはそう思った。

考えてみれば、FAカップでダービーと対戦したころがピークだった。
その後は、風船から空気が抜けるように何かがしぼんでいった。
残るはあとふたつ――リーグ戦と、FAトロフィー(カップ戦。FAカップより小規模)。
そのFAトロフィーで、あっさり2回戦負け。
こんなところで負けるはずがなかった。

監督も選手も、そしてファンも、華やかなFAカップの余韻に浸っていたのかもしれない。

なにをやっても、ぴりっとしない。
そんな毎日。
勝ったり、負けたり。引き分けも増えた。
ケガ人は増え続け、気がつくとまともに先発を組めなくなっていた。

ある日、アンダー世代の有望株(U-21チームに所属)アダム・サーストン(Adam Thurston)が監督室にやってきた。
部屋のドアを後ろ手にしめ、顔をあげると、彼は不満を爆発させる。
なだめる暇もなかった。
サーストンはそのままチームを去った。
はじめまして、を言うこともなく。

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いきなりトップチームの監督室に飛び込んでくるとはにゃ……。移籍金ゼロでワーキントンAFCに入団です。

それから先は、不満の大合唱。
破裂寸前の想いを抱えて、次からつぎへと、ひっきりなしに監督室に飛びこんでくる。
選手だけではない。
他チームの監督からは「なぜうちの選手を起用しないのか、先発で使うというからレンタル移籍を許可したのに」と電話で責められる。
雪の日の試合、肩をすぼめてピッチへと続く通路を歩いていると、ぶら下がり取材の記者からも、「Kuagica Bondoが先発落ちしたことが物議をかもしています。どうして彼を外したんですか?」と問いつめられる。

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ゆきがきれいじゃー。うつくしいじゃー。にゃにゃっ。


いっぽうで、日本からは明るいニュースばかり届いた。
特に、日本代表への期待はふくらむいっぽうだった。
アギーレジャパンは、イラクを破ってアジアカップ優勝。これでザッケローニ時代を含めて同大会連覇。コンフェデレーションカップにも出場できる。もちろんアギーレは続投だ。
その様子をテレビで見ながら、きみは混乱していた。

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これは正しいことなのか? あるべき姿なのか?
いや、そもそも、あるべき姿とは、いったいどんなものだったのか。
どこまでが現実で、どこからがフィクシ……blah-blah-blah、あれ、blah-blah-blah ...

ここで、猫さんがきみの心の一時停止ボタンを押した。
咳払いをひとつして、猫さんはブログ読者に語りかける。
「長いのでまとめちゃうと、こんな感じだにゃ。つらい時期も、左ウィングのエノク・ムケンディの超人的な活躍(月間MVPを2度獲得!)で、なんとか首位だったのね」

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「だけど、ある日、エージェントのマーク・ハンコックがムケンディのお給料を上げてくれって――」

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「ためらっていたら、激怒されて……。結局、シーズンの終わり(at the end of the season)に給料アップの件について話すから――。そう約束したんだにゃ。ところがところが?!」
そう言って、猫さんは次の画像を取り出した。
まるで紙芝居のようだった。

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「なぜかその次の日に、ムケンディが『どうして約束を守ってくれないんですかー』って怒鳴りこんできたのです。さあ、たいへんだ。『あの、昨日話しましたよね? まだシーズンの終わりじゃないんですけど?』というまっとうな理屈は通用せず、もはやその怒りはとめられない。心底うんざりしていたきみも応戦して、大げんかのすえに――」

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「最終的に、違約金を払ったうえに移籍金ゼロで、シーズン中に、同じリーグのチームに移籍しちゃいました^^。ちなみに、3月末にはBondoも出ていっちゃった」

きみの心が、ふたたび動き出す。
きみの頬に、猫さんの肉球がやさしく触れる。
「でもまだ首位だよ」と猫さんは言う。「東の風はね、たぶん、きみの心の中で吹いているんだよ。朗読の後半、聞いてた? 第一次世界大戦の前夜、年老いたホームズは、同じく年老いた相棒のワトスンにこう言うんだにゃ。もう一度、最初から読むね。よく聞いて。目を閉じて、耳をぴんと立てて、最後まで聴いて」


「東の風が吹いてきたね、ワトスン」
「違うだろう、ホームズ。とても暖かいよ」
「ワトスンときたら! この有為転変の時代にあっても、きみだけは変わらないね。でもやっぱり、東の風が吹いてきたんだよ。英国にはまだ一度も吹いたことのないような風が。冷たい、厳しい風になるだろうな。吹きすさぶその風のなかで多くのものが枯れてしまうかもしれない。しかし、それもまた神の吹かせる風だ。そして、嵐が過ぎ去ったとき、もっときれいで、もっと豊かで、もっと強い国が、輝く太陽の光のなかにあることだろう」
~『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』(アーサー・コナン・ドイル著、日暮雅通訳)より~

"There's an east wind coming, Watson."
"I think not, Holmes. It is very warm."
"Good old Watson! You are the one fixed point in a changing age. There's an east wind coming all the same, such a wind as never blew on England yet. It will be cold and bitter, Watson, and a good many of us may wither before its blast. But it's God's own wind none the less, and a cleaner, better, stronger land will lie in the sunshine when the storm has cleared."
~"His Last Bow" Arthur Conan Doyle