猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

夢の町、夢の箱、ハードディスクを破壊せよ

f:id:nekostreet221b:20150609195548j:plain

……声が聞こえる。

さ〇――×△――

……軽やかで、やわらかな響きを持つ、不思議な声。

さ――あ×――

……最初は遠くかすかに、しだいに近く確かに、空気をゆらゆらと揺らしながら耳元へ。

「さあさあさあ」

いや、ゆらゆらとかそんな生易しいものではない。
吐息を感じるほどものすごく近い場所から、言葉のカタマリが飛んでくる。

「なにしてるんだにゃ」
それは猫さんの声だった。
「はやくそのトンカチを振り下ろすですよ!」

どうやら、かなづちを振り下ろす寸前で身体が固まっていたようだ。
目の前には、プレイステーション3のハードディスク。
きみは思い出す。
今日は2015年の元旦。
お雑煮を食べたあと、ウェブサイトを参考にして、苦労してPS3本体からハードディスクを抜き出したのだった。
こなごなに破壊するために。

ではなぜ破壊するのか?
ここで、猫さんがブログ読者のほうを振り向いた。
「今月は苦しいからPS3を売って食費にあてよう、ってこの人が言い出したんだにゃ。でも個人情報の流出が心配だから、あちきがHDDの抜き出し方を調べて、さらにHDD抜きで買い取ってくれるお店を探して、じっさいに抜き出してみせて、隣の部屋の人にとんかちと小型ドリルを借りてきて、そのあげくにこの状況なのですっ」

きみはわかっていた。
自分がこのハードディスクを破壊できないことを。
もっとゴツゴツした、岩のようにハードなディスクを想像していた。
ところが実際は、スリムで、コンパクトで、表面のデザインも悪くない。
かわいい、といってもそれほど言いすぎではないだろう。
これをとんかちで打ちすえる?
ドリルで穴をあける?
お正月に?

きみは話題をかえる。
メッシのバロンドール受賞、ついにコーチライセンス(ナショナルB)を取得したこと、お雑煮に入れたライスケーキ(おもち。日本食品店で買った冷凍もの)の硬さなどなど――。
その中のひとつが猫さんの興味を引いた。
それは、ひとつの問いかけ。

「どこの町で、どのチームの監督になりたいか」

・猫さん

f:id:nekostreet221b:20150609200409j:plain

チャールトン・アスレティック(Charlton Athletic。イングランド2部)……ロンドン・ベイカー街へ電車で30分程度で立地が良い(*猫さんはベイカー街で拾われた)。女性が要職についていて、好感が持ている。エンブレムもシンプルでかわいい。

f:id:nekostreet221b:20150609200714j:plain

オックスフォード・ユナイテッド(Oxford United。イングランド4部)……猫さんの母猫がオックスフォード出身だから。6部にオックスフォード・シティというチームもあるが、エンブレムとユニフォームはユナイテッドのほうが好き。

f:id:nekostreet221b:20150609200945j:plain

f:id:nekostreet221b:20150609200949j:plain

アーセナルチェルシー(Arsenal or Chelsea。ともにイングランド1部)……強豪チームの中で、本拠地がベイカー街にもっとも近い場所にある。だれもが知る世界的な強豪なので、さすがに現実味なし。

f:id:nekostreet221b:20150609201220j:plain

ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオン(Brighton & Hove Albion。イングランド2部)……名探偵シャーロック・ホームズが晩年を過ごした地に近い、イースサセックス州ブライトンにあるクラブ。かもめのエンブレムがかわいすぎです。

・きみ
チャールトン・アスレティック……攻撃的なサッカーを志向していて、若手を積極的に起用する点に共感を持てる。ベルギーとの結びつきが強く、クラブ全体に外国風のこじゃれた雰囲気があるような気がする。グリニッジ天文台に近いという点も個人的にはプラス。

f:id:nekostreet221b:20150609201531j:plain

f:id:nekostreet221b:20150609201535j:plain

バルセロナビジャレアル(Barcelona or Villarreal。ともにスペイン1部)、アーセナル……攻撃的、ポゼッション志向、下部組織の若手を積極的に登用。好きな要素がつまった夢のチーム。バルセロナの町としての美しさ、アーセナルでヴェンゲルの後継者になるという名誉、人口5万人のスモールタウン・ビジャレアルで欧州の頂点を目指すロマン。どれも魅力的。現実味という意味ではどれもあり得ないかもだけど。

いつかチャールトンに――。
語り合ったすえに、それがひとりと一匹の目標になった。

いますぐ、という話ではない。
実現できるかできないか、という話でもない。
拾ってくれたハイドFCには感謝している。この地に、なにかすばらしいものを残せればという想いはある。
だが、
より大きな海を泳ぎたい。
より大きな空を飛びたい。
人も、猫も、その気持ちを失ってはいけないのだ。

ハードディスクは引き出しの片隅で静かに眠る。
これもまた、ひとつの夢の箱なのである。