猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

こわいのは嫁だけ、ふつうに猫と話します

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ハイドの本拠地、Ewen Fields。
その駐車場をふたりの男が歩いている。
どちらもフットボール選手のようだ。

駐車場を半分ほど横切ったところで、若いほうの選手が口を開く。
「言うまい言うまいと思ってたんスけど……」
年上のベテラン選手は、口笛を吹くのをやめ、後輩の顔を見た。
「んん? なんだって?」
「新しくきた、例の日本人監督。まだ直接話したことはないスけど、あの人ちょっと、ちょっというか半端なく……」
「なんだよ。はっきり言えよ」
「だって猫と」若手の声は裏返っている。「なんか、あの人、猫と話してるんですけど」

ベテランが大きなあくびをする。「それ、猫さん」
「は?」
「だから、猫さんって名前らしいぜ、あの猫」
「いや、名前とかどうでもよくて、あの監督、猫としゃべってるんですけど?」
「ああ、しゃべってるな」
「……なんかやけに落ち着いてません?」
「あのなあ、、そんなの6部じゃよくあることだぞ」
若手がのけぞる。
「そうなのっ!?」
「お前は3部のチームからレンタルされてきたばかりで知らんだろうが、6部はふつうに猫と話すから」
「ふつうにっ!?」
「いいか、上からきたからってあんま調子に乗んなよ。てめえの常識がいつでもどこでも通用するわけじゃねえんだ。俺たちが暮らすのは、フットボール母国イングランドだよ? お前が考えてるより、ここはずっとでかくて奥が深いんだよ」
「こっ――」若手は、なんとか声を絞り出す。ひざが震えていた。「これが6部歴16年の猛者のメンタリティか……」
ベテランは空を見上げる。
まぶしそうに、額に手をかざして。
「おそれることはねえ。だれだってそこからはじめるのさ……」


彼らと入れかわるように、別のふたり組が駐車場に姿を見せる。
こちらもベテランと若者だが、選手ではない。
「トニーさん、ほんとスか」にきび顔のやせた男が言う。
「間違いない」とファン歴30年のトニーが答える。「俺くらいになると、新米監督の考えくらい、手にとるようにわかる。やつは間違いなく下の画像みたいなことを考えてるね」

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「システムはふたつ。
メインは1枚目の画像、4-3-3(4-1-2-3 DM Wide)。
オプションで2枚目、完全ゼロトップ(4-1-2-3-0 DM Wide)。
重視するのはポゼッションだ。
ショートパスでボールを大事につなぎ、ゾーンディフェンスのすき間を通しながら敵ゴールまで迫る。ボールを奪われたらすぐさまプレス。5秒程度の激しいプレッシングを仕掛ける。それがうまくいかないときは、守備ブロックをつくって迎え撃つ。この繰り返しだ。ポゼッション→プレッシング→ポゼッションの循環が理想で、できるだけ長く相手陣内でプレーするフットボールを目指すに違いあるまい」

「あれ」とにきび顔。「前回のブログではゼロトップがメインになってたけど」
「あれはおそらく画像を貼りまちがえたんだ」
「そんなことまでわかるんスかっ!?」

トニーは3枚目の画像を指さした。
「各ポジションの役割はこんな感じだな。
3トップの中央に戦術の要『偽の9番(false nine)』、
得点力と突破力をあわせ持つ『左インサイドFW』、
フリーランと運動量でチームに貢献する『右インサイドFW』、
パスの円滑な流れを生み出すチームの心臓『ローミングプレイメイカー』、ディフェンスライン後方の広大なスペースをカバーし、ビルドアップの起点にもなる『スイーパーキーパー(attack)』――」

「あ、長すぎス。さくさく行きましょう」
「……4枚目はチーム戦術で、攻撃のキーワードだけ抜き出すと、

・ボールを保持し、簡単に失わないようにする(Retain Posessiton)
・ショートパスでつなぐ(Shorter Passing)
・無理なミドルシュートは打たず、ゴール近辺で良い形でボールを受けられるまで、辛抱強くボールをまわす(Work Ball into Box)
・大きく蹴りださず、ディフェンスラインから丁寧につなぐ(Play Out Of Defence) 
・クロスを入れるときは低く速いボールで(Low Crosses) 
・攻め急がず、サイドバックのオーバーラップを待つ(Look For Overlap) 
・ピッチの幅を広く使ってプレー(Play Wider) 

……という感じでやりたいはずだ」

にきび顔が目を輝かせる。
「無名の監督についてここまで調べるとはっ」
「最近、仕事を言いわけにする甘ちゃんが多いけどよ」とトニー。「俺くらいになるとな、フットボールで忙しくて、仕事なんてやってる暇ねえんだよ」
「すげえ」
「今日だってがっつりさぼってきたわけよ。新監督と選手の初顔合わせだからな。俺がいなくちゃはじまんねえだろ」
ジョジョの名セリフを叫びたくなるくらいリスペクトっす」
「ふっ、俺がおそれるのは嫁ぐらいなもんだぜ!」

その嫁が駐車場に姿をあらわすと、トニーは淑女のような悲鳴を上げた。首ねっこをつかまれて引きずられていくトニー。あわててあとを追うにきび顔。

ふたりと入れかわるようにあらわれたのが、新米監督のきみだ。
そう。
今日は選手たちとの初顔合わせ
トニーの言うように、重要な日なのである。