猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

かぼちゃの馬車で舞踏会へ① ~魔法文字で猫っとび~

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ちいさな洗面台のちいさな鏡。
鏡が映し出すのは、鼻歌を歌いながら服を選ぶきみの姿。
明日は待ちに待った日。
王子さまがお城でひらく、舞踏会の日。

もちろん、きみはシンデレラでもヘラクレスでもない。
お城の代わりに、市民ホール。
王子の代わりに、6部リーグのいつもの面々。
開催されるのも、舞踏会ではなく、最優秀監督賞の授賞式だ。
それでも名誉なことではないか、ときみは思う。
そもそも、舞踏会やらサミットやらに着ていくような服は持っていないのだから。

その後ろで、猫さんが両手をそろえて座っている。
うつむき加減に、眉は八の字。
ときどき顔を上げて、ため息をついたり首をかしげたり。
この格好どうかなあ、というきみの問いかけにも答えようとしない。
どうやらお祝い気分ではないようだ。
どうしたのだろう。
「もうたくさん。見てられないにゃっ」
そう言って、猫さんは洗面台の横の棚に飛び乗った。
ちいさな腕をせいいっぱい伸ばして、きみの肩に肉球をのせる。
まるでなぐさめるかのように。
「もういいよ。もうやめよう」

今度はきみが眉を八の字にする番だった。
なんの話をしているの、ときみは尋ねる。それより、受賞スピーチの練習、付き合ってもらえないかな。かぼちゃの馬車が迎えにくるまでには――。
「だからっ。現実逃避はやめようよ。ないんだにゃ、授賞式なんて」
きみは驚く。
延期の通知はきていないはずだった。
「延期もないし中止もないよ。とにかくスピーチの準備なんてする必要ないの。だって……」
だって?
「……きみは受賞者じゃないから」

受賞者、ぢゃ、ない?

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最優秀監督賞は、6部リーグの全監督の投票で決まるです。投票の結果、同賞に輝いたのは、ハロゲートのサイモン・ウィーバー(Simon Weaver)監督。リーグ順位は2位、勝率57%。得票数は5票でした。ぱちぱちぱちー。

なんで?
リーグ優勝したのに。FAカップではジャイアントキリングを連発して、3部以下のチームとしては最高の成績を残したのに。その様子がテレビで全国中継されて、ニュースにも取り上げられたのに。
どうして、2位?
「いや、きみは3位だったにゃ」

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投票数2位は、同じく5票を集めたノース・フェリビーのビリー・ヒース(Billy Heath)監督。リーグ順位は……8位、勝率33%。ええっと、ぱちぱちー。

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シーズンの最終順位表(1~10位まで)ですにゃっ。

きみはその場にがっくりとひざまずく。
思い出したのだ。
晴れ舞台に着る服を買ったあと、その残酷な知らせが届いたことを。
すっかり元気をなくし、ぐちを言う気力もなく、昨晩は猫さんにしがみついたまま目に涙を浮かべて眠ってしまったことを。

か、かぼ、ちゃ。
そうつぶやくと、きみはそのまま床に崩れ落ちる。
だんだんめんどくさくなってきていた猫さんだが、この哀れな姿はさすがに涙を誘った。

「たしかに変だしにゃ。よし、ちょっと出かけてくる」
猫さんが魔法の猫じゃらし(夢のおわりと魔法の猫じゃらし参照)を取り出す。
すると、たちまちのうちに、猫じゃらしは羽根ペンに姿を変えた。
ペンを使って、空中にすらすらと魔法文字を書き込む、猫さん。
その魔法文字を人間の言葉に置き換えると、こんな感じであった。

「アブラカタブラなんじゃもんじゃ。いらすとやさん、イラストありがとう。『パタリロ! 選集 26 --パタリロ山の伝説』からひとこと使わせていただきました🎵」

正しく書けたことを確認すると、猫さんはくるりと振り向いてブログ読者のほうを見る。
いや、見るだけでない。
読者のほうへ、まっすぐ、猫走り。
さらに、ぴょーんと猫っとび。
スクリーンを通り抜け、PC画面から飛び出した。

画面の先にいたのは、愛里・アドラー
前回前々回に登場した、日本出身のスポーツライターである。
彼女はノートパソコンに向かって原稿を書いているところだった。
そこに、とつぜん、いっぴきの猫。
画面からにゅるっと飛び出した猫さんは、愛里の肩に飛び乗ると、前足を右肩に、後ろ足を左肩に置いてバランスをとった。
グーグーが大島弓子にそうしたように。

猫さんの頬が、愛里の頬に触れる。
「あら猫さん」愛里は横目で猫さんに微笑みかける。「なにか用?」

動じてない!
どうじて!?

その理由は次回でにゃっ。