猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

海だ!山だ!夏休みだよ本音とーく(下)

遅れてきたジェントルマン。
英国パブの店主、ジョニー・カンバーバッチ。
首をかすかに傾け、目をほそめて、一同を見わたす。
「お客さまにおつたえしたいことがございます」
ちょっと待ったー!
さえぎったのは江戸川さんだった。
あんたさ、えっと、カウンターピンチさんでしたっけ?
「カウンターパンチです。いや、カンバーバッチです」
どっちだっていいんだよ。いきなり出てきて、なんですかえらそうに。そんなに長身でさ、すらっとしてさ、よゆうたっぷりでさ。英国イケメン俳優的なそのふんいきはなんなの?
カンバーバッチ氏はスマートフォンサイズの江戸川さんを見下ろす。
「お客さまは『進撃の巨人』というコミックブックをご存じですか」
知ってますよ。中学生の息子が読んでるから。
「いまのお客さまの立場を、それになぞらえてみましょう。あなたが群れからはぐれた憲兵団員だとすれば――」
……だとすれば?
「――わたくしは大型巨人です」
カンバーバッチ氏はうでをすうっとのばす。てのひらで包み込むように江戸川さんに触れ、かたくにぎりしめる。
あ、ちょっ、いたたたっ。ギブ、ギブ。ごめんなさいごめんなさい。このひとこんなときもほほえんでるヨ!

こほん、と咳払いするカンバーバッチ氏。
「では、あらためまして。お伝えします。お客さまがFootball Managerの世界から出られて、1週間がたちました」
しまった、と猫さんは思う。時の流れが――。
「そのとおりでございます」とカンバーバッチ。「こちらの世界とあちらの世界では時間の流れかたがちがうのです」
わたしの出張はどうなっちゃうんでしょ、と江戸川さんは聞く。
「おさぼりになられた、あるいはドタキャンされた、ということになっております」
マジかよっ!
愛里が江戸川を押しのける。
「今週はしめきり3本もあったんだけど、まさか――」
「おにげになった、ばっくれられた、とみなさん考えておられるようです。ちなみにハイドFCのリーグ最終戦も終了いたしました」
あわてて魔法の猫じゃらしを手にとる、猫さん。
空中にうかんだ画面がうつしだす。猫専用ニュースアカウント「そこでニャンすぽ!」である。

おおきなニュースはふたつ。
わるいニュースと、もっとわるいニュースだ。
-------------------

日本代表がW杯予選で敗退
アギーレジャパンがアジア2次予選で敗退……。ワールドカップ出場をのがしたですにゃ。

f:id:nekostreet221b:20150724212639j:plain
最終予選に進んだのは1位のサウジアラビア(無敗)。日本はシンガポール戦で2勝しておきたかったです……。

f:id:nekostreet221b:20150724212712j:plain
日本代表の布陣です(見えるかにゃ)。4-3-3。3トップは左から清武、岡崎、豊田。インサイドハーフは柴崎と長谷部、アンカーに細貝。SBは長友と酒井高徳、CBは槙野と植田。GKは飯倉でした。岡崎が9得点で大会得点王。適正ポジションのない本田圭佑は先発とベンチをいったりきたり。香川真司はいちども召集されませんでした

f:id:nekostreet221b:20150724212746j:plain大会の結果を受け、アギーレは解雇(sackは『解雇する』の意)

f:id:nekostreet221b:20150724212758j:plain
後任は城福浩に決まりましたです

5部リーグ最終戦f:id:nekostreet221b:20150724212909j:plain

勝てば優勝。
負け・ひきわけで2位。
試合直前に「偽の9番」リース・グレイがケガで離脱。さらに、ケガ多発でセンターバックがひとりだけになってしまったため、中盤の選手を急きょコンバートしてしのぐ。左のウィングは今季初出場のヒューズ。不安を抱えてゲームがスタートした。
試合序盤、その不安がさっそくてきちゅう。急増CBのネイサン・バークがペナルティエリアパスミス。いきなり先制される。
その後はハイドがゲームを支配するものの、なかなか点がはいらない。

f:id:nekostreet221b:20150724212952j:plain
くるしいときに頼りになるキーン・ブライアン。みずから獲得したPKをれいせいに決め、ついに同点。
だが、その後も展開はかわらない。
攻めて、攻めて、攻めて――。
あっけない結末。ふたたび、ネイサン・バークがペナルティエリア内でパスミス。決勝点はダゲナム・アンド・レッドブリッジFCに。

f:id:nekostreet221b:20150724213018j:plain

最終スコアは1-2。
ハイドFCは2位でシーズンを終え、昇格プレーオフにまわることになったのです。
にゃにゃにゃっ。
-------------------

「おちついて、猫さん」と愛里。「いまたいせつなのは、それぞれの場所にいっこくもはやく帰ることでしょ」
「……うん、うん」
「最短ルートをとおろう。ゲートはどこ?」
猫さんが肉球でさししめす。
それは、ホットミルクのはいったカップと、黒ビールのはいったジョッキ。
ここに飛びこめ、ということらしい。
愛里はPCの入ったかばんを肩にかける。「あたしと猫さんはミルクにとびこむ。江戸川さんはビールで」
江戸川さんはしっぽでゆかをはたく。
よおしっ……って、ビールかよ!?
「うん。すきでしょ」
飲むのはすきですよ。でもこれとびこむって話でしょ。クレオパトラだって、牛乳風呂はすきだっただろうけど、ビール風呂にははいらなかったと思うし。だいたいそのビール、愛里ちゃんの――。
「さあ、行こう!」

ざぶん。
ざぶーん。
どぼおーん。

物語と現実をへだてるまくが、音もなくくずれおちる。
食器がぶつかりあう音、はじけるような笑い声、活気と熱気、人びとの生きるエネルギー。
カンバーバッチ氏がテーブルを片づけてしまうと、そこにあるのは、いつもの、そうぞうしい、英国パブの夜。




エピローグ(おまけ)

ねえねえ、多摩子。
なによ、ミシガン子。
さいきん、江戸川さん、ちょっといい感じじゃない?
ああ、このあいだ失踪して副編に降格させられた、あの江戸川さんね。
だれに説明してんのよ。まえはちょっと頼りないとこあったけど、いまはこう、肩で風きって歩いてるみたいな。
あー、わかるわかる。いふどうどう。あのカンパチがたじたじだからね。
かんぜん、立場逆転したよね。
まあ、あんなかわいいしっぽで書類ぺしぺしやられるとねー。
しっぽで名刺わたすとか、それまじ反則だからみたいな。

ふたりの女子社員からすこしはなれたデスク。
そこで、江戸川さんはメールを打っている。あてさきは、英国の愛里だ。

愛里さん、このあいだはお世話になりました。
あのあといろいろたいへんだったけど、みんなに会えてよかったと思ってます。
ぺし。
さいきんはじつに気分がいいのです。にんげんは進化の過程で、しっぽの機能を捨て去ったといいます。早計だったかもしれないですね。ふべんで必要のないものが、人とひとをつなぐたいせつな要素になることもあるのですから。
ぺしぺし。
ちかいうちにまたお会いしましょう。あのパブで。愛里さんと、猫さんの、ふたりといっぴきで。ああ、店主のカンバーバッチ氏にもお会いしたいな。いまなら彼とすなおに向き合える気がするんです。ふしぎですね、しっぽって。
ぺしぺしのぺしーっ。