猫さんへの手紙① ~選手がほんとこわいです
猫さんが目覚める。
きみたちが暮らすフラットの一室で。
長かった夏も終わり、秋は深まりをみせていた。
猫毛を身にまとっているとはいえ、すこしだけ肌寒い。
飼い主であるきみの姿が見えず、猫さんはとまどう。
机に飛び乗ると、朝食の横に置き手紙があった。
「どうやら出かけたみたいだにゃ。メールしてくれればいいのに……」
猫さんへ、ではじまるその手紙はこんな内容だった。
------------------
おはよう。
朝食のコーンフロスト(箱)を置いておきます。お皿にいれて、ミルクをかけて食べてください(おいしいよ!)。
さてさて。
監督になって、はや数か月。
いろいろなことがあったね。
はじめての記者会見、どうにか勝ててほっとした歓迎試合(対ハイドU-21)、雨の中つかんだ開幕戦の勝利、ウィングのエノク・ムケンディが活躍してチームを引っ張ってくれたこと、開幕6戦無敗というチーム新記録を打ち立て、8月の月間最優秀監督に選ばれたこと。
その後も、浮き沈みがありながら首位争い。
監督として素晴らしいスタートを切れました。
-------------------
猫さんは手紙のそばにある虎のマークの大きな箱を見た。
「コーンフロスティとか、ほんと無理だから」
--------------------
でもでも、ふたつだけ。
気になることを書かせてください。
ひとつはケガについて。もうひとつは、選手の不満についてです。
まず、選手の不満について書きます。
以前、切れやすい若者という言葉がありましたね。うちの選手もやたらと「切れやすい」のです。たとえば、ブライス・ワシ(17歳)の件。
「おれは先発にふさわしい」と言って出場機会を強く求めるので、「カップ戦で出場させるから、まずはそこで結果を出してほしい」となだめていると、最終的に――
「そんなんで満足するわけないじゃないすか。いまどきの選手がどんだけ影響力あるかわかってる? おれの価値にふさわしい出場機会を得られないなら、ここでのあんたの日々を耐えがたいものにしてやってもいいんですけど?」
あまりにこわいので、脅しに屈して先発起用を約束すると――
「ようやく自分がまちがっていることに気づいたみたいすね。さっそくの先発起用、楽しみにしてますわ」
あ、あなたは暴〇団かなにかですか?
ちなみに、アレックス・マクエイドという選手にも同じことを言われ、脅しに屈せず説得しようとしたところ――
「それならもう話すことなんてないですね。(あんたとサヨナラしたあと)選手をまともに扱える監督さんと仕事するのが楽しみでしかたないです」とのこと。
そのまま退団していきました。
こんな悲しい想いはもうたくさん。
選手が不満をためこまないよう、こまめにケアしてあげねば。
そのためには、日頃から積極的に話しかけることが大事なのですが、これも気をつけなければ選手に切れられます。
たとえば、同じようなセリフは、ある程度間隔をおいてからでないと使ってはいけません。
「きみは皆の手本になるよう振る舞ってくれている。すばらしいことだよ」→ブライス・ワシ切れる。「何度もなんども同じ話をされたくないんですけど?」
「トレーニングでがんばっていること、ちゃんとわかっているつもりだよ。それを伝えたくてちょっと立ち寄ってみたんだ」→Kuagica Bondo切れる。「まともなサポートさえ受けられれば、もっとできるはずなんですけどね」
キャプテンに頼めば不満解消に乗り出してくれるけれど、何度も頼むと「またその話?」と切れられるという……。
だんだん、選手に話しかけるのがこわくなってきました(笑)。
ケガについては、コーンフロストを食べたあとに読んでください。
-------------------
「カルカンとかないかにゃあ」
台所の戸棚の中にもぐりこみ、むなしい探索を終えたあと、猫さんはため息をついた。
しかたなく、お皿に牛乳をそそぐ。
「次回に続くにゃ」