猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

ままならないものさ、Football Managerは

ことばがない。
きょう、ひとりの選手がチームにさよならをする。
その背中にかけることばが、どうしても見つからない。

クリスタルパレスのかんとくに就任してから2週間がたった。
ふまんを爆発させた選手は12名。そのうちの数人がチームを去る。
そう。ロンドンで猛威をふるう伝染病。
「ビッグクラブに行きたいんです。ぷんぷんっ」病のしわざである。

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チームにさよならするのは、ホセ・ホレバス。リーグ・アンのレンヌへ

ぷんぷん病と重傷者ぞくしゅつのダブルぱんち。
そんなことにおかまいなく試合はつづく。

対ダービー(6位)  △3-3
アストンビラ(1位)〇2-1
ワトフォード(3位)△0-0

これで、就任から1勝3分け。
次節のあいてはブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオン。最大のライバルとのダービーマッチである。

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「もうやめておきなよ」と猫さん。「飲みすぎだよ」
いいからもういっぱい、ときみは言う。
「でも――」
いいからちょうだい。あびるほど飲むってきめたんだ。
「しょうがないなあ。あといっぱいだけだよ」
猫さんがいれてくれた紅茶を、きみはぐいぐい飲む。
ぷはー。やっぱりアッサムはミルクに合うね。
ここは猫さんがはたらく猫カフェ「猫毛連盟」。
もうアルバイトをする必要はないけれど、猫さんはきょうもこうしてカフェにいる。
ただはたらきたいのか、きみがクビになるのを心配しているのか。おそらくその両方だろう。

記者から聞かれた質問が、きみの頭からはなれない。
――ハイドFCのかんとくを辞任したことを後悔していますか?

後悔しているわけじゃないよ。ただ、思うんだ。ひとつのチームにずっといて、そのチームの象徴のような存在になって。そういうのってすばらしいなって。
「それはわかるけど」スコーンをつまみ食いする猫さん。
もぐもぐ。
ハイドをやめたことで、そういう「ありえたかもしれない自分」を永遠にうしなってしまったような気がするんだ。あたらしいチームで、なにもかもいちからやり直し。見知らぬ土地で見知らぬひとにかこまれて、選手のなまえを一人ひとりまた覚えてさ。
「わるくないよ。そういうのも」
でも、つぎ負けたら、また仕事をさがすことになるかもよ。そこで勝ったとしても、シーズンがおわるまであと3試合。そのあとのことなんてわからない。これからもそうやってチームを転々としていくのかなあ。負け組のかんとくだからこうなのかなあって。
「なにそれ?」と猫さん。硬い、つめたい声。「なんでそれが負けたことになるわけ?」
猫さんは立ち上がり、おおきく息をすいこむ。
「ジェラードはリバプールで引退できなかったけど、そのことで彼のキャリアはだいなしになるの? そうじゃないでしょ? ひとつのチームにずっといる。そうなったらそれはすばらしいことだし、うれしいことだよ。でもすばらしさにもいろいろあるでしょ? うれしさにもいろいろなカタチがあるよね? だいたいさ、そういうことって、あとからふりかえってみてはじめてわかることじゃないの? その日うまくいかなくても、そのとき失敗しても、そのおかげであとあとやりやすくなることもある。さいしょにうまくいきすぎたことで、自分を見失ってしまうこともある。そんなのすぐにはわからないじゃないか。きみはかんとくとしてはまだまだぺーぺーで、赤ん坊みたいなものなんだよ。ペーペーのくせに、勝ったとか負けたとか、10年はやいよ。あちきはそんなきみに『負け組』とか言ってほしくないっ。ぜったいにっ。いい? そう言うことで、きみは、きみに期待して信頼してくれるすべてのひとと猫を侮辱したんだよっ!」
ごめん、きみはあやまる。
「やめなよ。じぶんのことを、ろくでなしとか甲斐性なしとか、ともだちがすくないとか人望がないとかモテないとか、6部でしか通用しないヘボかんとくとか。お酒に弱いとか、こんぶが食べられないとか、ねぞうがわるくて夜ふとんをけとばすとか。そんなふうに考えちゃだめだよっ」
あ、えーと、はい……。
「あちきだってね、いろいろ思うところはあるよ。『岩合光昭の世界ネコ歩き』とか見るとあせりを感じることもある。でも、まずは、いまのこのしごとをきちんとしたい。手をぬかず、めんどくさがらず、どんなことでもこころをこめてやりたい」
そこで、店のおくからおおきなこえ。
店長のウィルスンさんだ。
「ちょっと、猫さぁん」とウィルスンさん。「こっち手伝ってくれないかな。ぼく、シティ・アンド・サバーバン銀行に行ってくるからぁ」
とたんに猫さんのようすが変わる。口をはんぶんあけて、とおい目。
「あれ、猫さぁん、ちょっとぉ」
ねえ、ときみは声をかける。
「しぃっ」
いや、店長さん呼んでるみたいだよ。
「いま特殊能力『きこえないふり』を発動させているところなの。あれ手伝うとすごく面倒だからにゃ」
この会話ぜったいおかしいよね!?

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ブライトンとのダービーマッチ
0-0の同点でむかえた後半。
選手がつぎつぎに負傷交代したうえに、センターフォワードのドワイト・ゲイルが重傷。
もちろん交代枠はなし。
きゅうきょ、4-3-3ゼロトップ(偽の9番をトップにおくかたち)から、4-1-2-3-0(かんぜんなゼロトップ)に変更する。
ひたすらまもる展開のなか、スコット・ダン(ぷんぷん病初号機)がレッドカードでいっぱつ退場。
これでピッチには9人だけ。
しかもこのあとPKをとられてしまう。

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だが、フットボールとはふしぎなもの。
ここでふたつの幸運がおとずれる。

幸運1 PKがはずれる
幸運2 はずれたボールがおおきくはねかえり、ぜっこうのカウンターに。予想していなかったブライトンの守備陣は追いつけない。

こんらんのなかで生まれた決勝点。
1-0。
勝利の女神がほほえんだのは、きみのクリスタルパレス

あのばめん。
スコット・ダンが退場にならなければ、あのままブライトンに押し切られていたかもしれない。
もちろんそれは可能性にすぎない。
ひとつたしかなのは、なにがどうころぶか、それはだれにもわからないということ。
この1勝も、ながい目でみれば、よかったのかわるかったのか。
名作「ローマの休日」のセリフを借りるまでもなく、この世はままならぬもの。
ひとや猫にできるのは、毎日をせいいっぱい生きて、あしたを信じることだけなのかもしれない。

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この試合でゲイルが重傷。半年ちかくの離脱。さらに控えセンターフォワードフレイザー・キャンベルも重傷。加えて、スコット・ダンが3試合の出場停止に。ダンの今シーズンは終了ですにゃ

って、なかなかそうは思えないよね!
残る試合はあとふたつ――。

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