猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

しごと探しはたいへんです ~ただいま就職活動中

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春のロンドン。
サウス・コウバーグ・スクエアにほどちかい場所。
れんが造りのビルの2階にその店はある。
ウィルスンさんが経営する猫カフェ「猫毛連盟⇒ねこむすめ!」だ。

猫さんはそこで、わかい女性の客と話をしていた。
なにをしているのか?
アルバイトである。

「それで、生活がくるしくてバイトをはじめたのね」と女性は言う。
そうなんだにゃ、と猫さん。
「えらいよね。飼い主さんをやしなうために」
いえいえ。
「でもその飼い主さんってどういうひとなの。ふつう、猫を働かせるかな」
そんなにわるいやつでもないんだにゃ。それに、ほんとうはずっと働きたかったですよ。自分のたべる分くらい、自分でかせがなきゃ。
「ううっ、なんてりっぱな……」

女性の名前はジョー・ワトソン。
本名は「ジョセフィン」なのだが、大学のともだちからは愛称の「ジョー」で呼ばれることが多い。
猫さんはジョーのことがすきだった。
本の話をしてくれたり、旅行の話をしてくれたり。
ちゃんと猫という生きものに――ほかの生きものに対しても――敬意をはらえるひとだった。足首になんども頭突きしたくなるような、あったかい女性だった。

身のうえ話を聞いたジョーは、はじめはおどろき、つぎに泣いた。
飼い主が新進気鋭のフットボール監督であること。
いまは無職で、1年ちかくしごとがないこと。
本屋さんでアルバイトをしながら、監督の空きポストに応募して、面接を受けていること。
そんな飼い主にだまって仕事を探したけれど、なかなか雇ってもらえず、ようやく見つけたのが猫カフェの仕事だったこと。
「そうだよね」とジョー。「シャーロック・ホームズの時代の女性が、家庭教師くらいしか働き口がなかったのといっしょかもね。でもみんなの理解がすすめば、きっとできる仕事がふえるよ。アメリカではヒラリーが大統領候補に立候補したわけだし」
そんなものかにゃあ。
「そうだよ。それに、あたしが出世したら猫さんをかならず雇ってあげる」
ジョーのゆめはフットボールクラブのマネージングディレクターになることだった。
「やくそくするから。ねっ」
にくきゅう握手。
ぶんぶん。

大学の授業があるジョーが、さよならを言って店を出る。
入れかわるように、男性のお客がひとり来店。
店に足をふみいれて、猫たちのすがたをみて、背中をのけぞらせる。
ときどき、へんなお店とかんちがいして入ってくる男性客はいた。
このひともそれかも。
よく見ると、トニーだった。

「ちがうちがう」とトニーは首をぶんぶんよこに振る。「ちがうってば。ほんと、最初から猫カフェだって思ってました! なんでうたがうかなあ。意味わかんないんですけど? まったくさあ、もう……奥さんにはぜったいにないしょな。なっ?」
それはいいけど、ロンドンでなにしてるんだにゃ。
「しごとだよ。出張」
ふうん、しごとしてたんだ。
「してるよ! なに言ってんの! おれをなんだと思ってるわけ!?」
これ、と猫さんはトニーのかばんを開けながら言う。この、お寿司型のブローチは?
「奥さんへのおみやげだよ。クールだろ。あしたの朝ハイドに戻るから、いまのうちにデパートでそれ買って、それでちょっと休憩しようと思っただけじゃん? 問題ないじゃん? ……というか、そっちこそなにしてんだよ、こんなところで」
猫さんの話をきいて、トニーも泣いた。
「おまっ、ちょっ……。ぜんぜんニュースに出てこないから、どうしたんだろうって思ってたら、なにやってんのあのひと。あれから8ヶ月だぜ。もう春だぜ」
じつはこのあいだも面接に行ったんだにゃ。いまはその結果待ち。家でふるえてる。
「ふるえてるって、子どもかよ」
トニーは猫ミルクティーをふたり分注文する。
12ユーロだった(約1600円)。
「まあ、飲めよ。せっかくだからくわしい話聞かせてくれ。ってか、高いな!」

つづくにゃっ!