猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

こんにちは新シーズン。今季もよろしくね!

きょうは初出勤の日。
いざ、クリスタルパレスへ。
クラブハウスに乗りこむまえに、ポケットからメモをとりだす。
朝、家をでるときに猫さんから手渡されたのだ。
あとで読んでね、と。

To Do リスト
・会長にあいさつ
・スタッフとのミーティング
・選手たちとの初顔合わせ。スピーチする
・ミルクとコーンフロスティ、それからりんごをふたつ買う。できればドラッグストアで洗剤もおねがい

よしっ。
ぜんぜんげんき出なかったし、
はげまされもしなかったけど、よしっ。


そのころ。
練習場にはすこしずつ選手が集まってきていた。
たったいま車からおりたふたりもそう。今季加入したルーキーと、3つ年上のせんぱい選手だ。
駐車場でルーキーが声をかける。「あのですね、せんぱい」
「なんだよ、こうはい」
「言うまい言うまいと思ってたけど――」
「もうあきた」
「え?」
「それ、聞きあきたから」
「まだなにも言って――」
「どうせ『新しくきたかんとく、猫としゃべるとかありえないんですけど?』とかそんな感じだろ。もう聞きあきたっての。毎年毎年、シーズンのはじめにさ。なんどめだよこの話題」
「ええっと」とルーキー。「なんのはなし?」
「そうだよ。6部や5部の連中は猫とふつうに話すよ。このブログを読んでればそんなの常識だ。だけどさ、それっておれらにはできないことなの? むりとか思ってた? イングランドの2部がどんだけレベル高いかわかってる?」
せんぱい選手はいったん言葉をきり、親ゆびでじぶんの胸もとをたたいた。くちもとに広がる、おとなの笑み。
「よゆうなんだよ、それくらい」
「す、すげえ」
「猫どころかおまえ、空飛んでる鳥さんとかとも交信できるしね!」
そのとき一羽のはとが舞いおりる。
ぽぽ、ぽぽー。
見つめ合う、ふたりといっぴき。
ルーキーがせんぱいの腕を引く。「鳥ですよ、鳥。チャンスですよ。交信してみてくださいよ」
「いや、きょうはちょっとコンディションが――」
そう言いかけて、せんぱいははっとする。
こうはいのまなざし。期待に満ちた、そのひとみ。
いけない、と思う。この目をうらぎってはいけない。
そうだった。おれもむかしはこんな目でクラブハウスを見上げてた。ピッチへ続く通路のひんやりとした空気、スパイクのピンが床をたたく音、流れこむ風の手触り。一秒一秒、すべてのことがだいじに思えた。意味があるように思えた。
鳥さんとコミュニケーションだ? やってやるよ。おれは世界最高の2部リーグでプレーするフットボーラー。やってやる。
せんぱいは両手を水平につきだした。うでを鳥のようにぱたぱたと上下に動かす。
そして、鳴いた。せいいっぱいのハイピッチサウンドで。
「ウキー。ウキキー」
ぽ、と鳴いてはとさんは後ずさる。
「ウキキィー!」
ぼ、ぽぽー!
逃げるはとさん。追うせんぱい。こうはいはロッカールームに向かう。

それから1時間後。
場所はマンチェスター近郊の町ハイド。
コーヒーショップで、トニーとウィギンスが向かいあってすわっている。ふたりをはさむテーブルに、猫じゃらしがいっぽん。
「なんにもうつらねえけど」とトニー。
うつりませんねえ、とウィギンス。へんだなあ。猫さんにスマホ化してもらったんだけど。
ウィギンスは猫じゃらしをたしかめる。
ふたりが待っているのは、選手ときみの初ミーティングの映像(ライブ)。映像は猫じゃらし型スマートホンでかんたんに受信できるはずだった。
ところが待てども待てども映像がはいらない。
「おい、ほんとに話はとおってんだろうな」
あ、とウィギンス。だめだこれ。このスマホ、P01Dだし。アプリの更新すらできない機種で、動画見るとかむりだから。かたまってる。
「なにそれ!?」
ウィギンスは手をあげて、トニーを制す。
おれに考えがあります。ここで待ってて。すぐもどります。
とめるまもなく店を飛びだすウィギンス。
コーヒーをもういっぱい注文して、奥さんのことを考えつつコーヒーをすすっていると、ウィギンスが戻ってきた。
だめでした。docomoショップのおねえさんと話したけどうまくいかなかった。ざんねんながら映像は受信できそうにないです。
「ハイドにdocomoショップなんてあったんだ!?」
もちろんですよ、という顔をするウィギンス。
「それより、おまえ、その猫じゃらしを持っていったわけ? ショップのおねえさん、なんて言ってた」
この猫じゃらしは現時点ではサポート対象外らしいですよ。機種変更もすぐにはできないそうです。
「……そのひと笑顔だった?」
まんめんの笑みを浮かべてましたけど。
「なんという神対応

帰りみち。
きみはドラッグストアのレジに並んでいる。
長い列。時間がかかりそう。
今日いちにちのことの考えることにした。

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アシスタントマネージャーのキース・ミレン(Keith Millen)。環境適応力、マンマネジメント、守備指導力、選手の将来性を見抜く能力などに優れる。コーチングライセンスも、最高レベルのコンチネンタル・プロ

スタッフミーティングでまず話をしたのが、アシスタントマネージャーのキース・ミレンだった。
下位リーグではまずお目にかかれないような有能なスタッフ。
キースはふしぎなひとで、アシスタントと監督を行ったりきたりしている。
ブリストル・シティで2度ざんてい監督を任され、ここクリスタルパレスではなんと3度もざんてい監督を任された。いずれも「つなぎ」の役割で、ほかの監督が就任するとすぐ身を退く。ほとんどの場合、アシスタントマネージャーの座に戻っている。
ちなみに、2013-14年シーズンはざんてい監督として4試合を指揮(1勝2敗2分)。14-15年シーズンにはわずか2週間ざんてい監督をつとめ、ニール・ワーノックが監督に就任するといっしゅんだけ無職状態になり、そのあとアシスタントマネージャーに復帰。と思ったら、12月にワーノックが解雇され、ふたたびざんてい監督に。翌年1月にアラン・パデューが監督としてやってくるとアシスタントマネージャーに戻った。
つねにだれかの右腕。信頼できるおとこ。それがキース・ミレン。
わかれぎわには、"Cheers!(ではまた!)"とあいさつしてくれた。
しょうじきに言って、このひとが監督になったほうがチームのためになるような気もする。
そのほかにも、ユース部門のトップGary Issottの能力がすばらしかった。ほかのスタッフもそろって優秀。経験も能力も、あきらかに自分よりもうえである。
さすがプレミアをなんども経験しているチーム。
まさに別世界だ。

そこで劣等感のようなものを抱いてしまったのだろうか。
選手との初顔合わせ、とくにスピーチはうまくいかなかった。
会長には「昇格します」と話したけれど、じっさいはプレイオフに出場することすらむずかしい状況。
現実と理想。
けっきょく選手にはこう伝えた。中の上くらいの順位をめざそう、と。

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選手の反応。反対派が多数。賛成派(緑)の代表はキム・ボギョン。反対派(赤)の代表はスコット・ダン。支持率はひくい

目標に賛成する選手が5人、反対する選手が9人。
選手は現実がよくわかっている。
3月末にこの状況(12位)では中位がやっと、というのが現実的なはんだんなのだろう。
でも、それではだめなのだ。
一歩でいい。いまの場所からほんの一歩でいいからまえに進みたい。そう願うことがだいじなのだ。
(そうしないとくびになるという事情もあるけれど)
だからあえてきびしい言葉を投げかけた。
きみたちには失望した、と。

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きびしいの言葉への反応。士気を高めた選手6人(緑)、現状維持7人(黒)、士気をさげた選手がひとり(赤)

うれしかったのは、キム・ボギョンが支持してくれたこと。
セレッソ大阪時代、清武らとともにチームを盛り上げたキム。
クリスタルパレスでもきっと活躍してくれることだろう。

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もとセレッソ大阪キム・ボギョン。能力値15以上は、ファーストタッチ、テクニック、視野のひろさ。ちなみにFootball Managerの能力値は20段階評価です

レジでお金をはらっているときに、きみは思い出す。
猫じゃらし!
これでスピーチのようすを撮影するように、と猫さんに持たされた。どうつかえばいいのかわからず、しかたなく、はとを抱えていた選手に撮影をお願いしたのだ。
あれは申しわけなかったなあ。
なにを話しても「ウキキッ」とこたえていたので、いろいろとふあんだし。
でも、きっとユニークなひとなのだろう。
彼だけでなく、みんなのことをはやく知って、理解しなければ。
あしたからいそがしくなるぞ。