猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

フットボール・サポーター・マップ @ロンドン

ゆさゆさ、ゆさゆさ。
ゆれてゆられて目がさめて。
猫さんがむっくりと起き上がると、
列車はロンドン・ユーストン駅に到着したばかり。
まだ、ドアは開いていない。

すぐそばで、きみのこえが聞こえる。
猫さん、からだの下にあるロンドンの地図とってくれる?
おなかの下に、かたい紙の感触。どうやら地図のうえで寝入ってしまったらしい。
「あ、ごめんごめん」
肉球で手渡される地図。でも、なにかがへんだ。
これ、さっきわたした地図……じゃないよね。
「つかいやすいように、変化させておいたにゃ」

f:id:nekostreet221b:20150801194007j:plain"The Soccer Tribe" Desmond Morris

「ロンドンのどの地域にどのチームのファンがいるのか。これをみればわかるです」
えっと、でもこれだといまいる場所すら――。
「そう。ロンドンにはフットボールクラブがひしめきあっているのです。アマチュアもふくめると100近くのクラブがあるみたい。でも、あんしんして。ここに載っているのは有力クラブだけだし、色わけされてるからわかりやすいよ」
そうじゃなくて、駅とか地下鉄とか――。
「『〇』が本拠地の位置だね。ほとんどのチームがそこを中心にファンが広がってる」
いや、あのさ。
アーセナル(Arsenal)とトッテナム(Tottenham)は北部、チェルシー(Chelsea)は西部にファンがたくさん。こうしてみると、ウェストハム(West Ham)は東部からものすごく支持されているみたいだね」
もしもし?
「このあいだ優勝をあらそったダゲナム・アンド・レッドブリッジ(Dagenham & Redbridge)は北西部だね。監督が退任したばかりで、監督募集中で、その最有力候補がきみというダゲナム・アンド・レッドブリッジ! きみさえ望めば無職を脱出させてくれるという、ダゲナム・アンド・レッドブリッジをよろしくっ!」
あ、チャールトン(Charlton)はサウス・イーストだよ。
「いいなあ、ダゲナム・アンド・レッド。ほら、見て。北西部の、ピンク色、ななめの斜線のところ。ここが生活の安定をもたらすダゲナム・アンド――」

きみは奥の手をだす。
ベイカー街は中立地帯なんだね。
「う」
まんなかの、はいいろのところ。
「……まあ、街の中心部だから」
ここで猫さんに出会ったんだよね。
「……まあ、あちきがきみをひろってあげたわけだけど」
思い出の地だね。ダゲナム・アンド・レッドからはちょっと遠いみたいだけど。
「でも……」
3ヶ月。3ヶ月時間をください。ベイカー街にすこしでも近づきたい。りくつじゃないんだ。思い入れのある場所のちかくで監督をしたい。アーセナルとかチェルシーはさすがにむりだけど、チャールトンは手が届くぎりぎりのところだし、 「若手の育成」「攻撃的なサッカー」というクラブ哲学も気に入ってるんだ。もういちどだけ、チャレンジさせてくれないかな?
「3ヶ月たって空きが出なかったら?」
雇ってくれるクラブで働くよ。
「わかったよ。わかりました。でもそれならフラム(Fulham)とかミルウォール(Millwall)も候補にいれてよ。そっちのほうがベイカー街にちかいんだから」
フラムは今季からプレミアだからちょっとむずかしいよ。後者は映画の影響があって……。
「ああ、『フーリガン』ね。『ロード・オブ・ザ・リング』のイライジャ・ウッドが主演した。ウェストハムミルウォールのファームの抗争がすごかったにゃ」

きみは映画のかなしい結末を思いだす。
イングランドのプロチームには、それぞれ「ファーム」とよばれるフーリガンのグループがついている。
フーリガンとは、スタジアム内外でさわぎを起こす乱暴者を指すことば。かつては、ファーム間で乱闘さわぎが多発し、死人が出ることもめずらしくなかったという。
「あれは名作だにゃ。当時31歳だった新人女性監督Lexi Alexander(レクシー・アレクサンダー)の作品ということでも話題になったし。彼女は空手の元世界チャンピオン。10代のころはフーリガンといっしょに試合観戦していたというだけあって、一つひとつのシーンにあっとうてきなリアリティを感じましたです」

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Green Street Hooligans /2005/ USA&UK

英国の首都ロンドン。
経済、文化、そしてフットボールにおけるビッグシティ。
その中心部にあるユーストン駅におりたった、ひとりといっぴき。
手には、実生活の役に立ちそうもないフットボールマップ。
目指すは、監督を必要としていない2部のチーム。
「うーん。だいじょぶかにゃあ……」

もちろん、ぜんぜん「だいじゅぶ」ではなかった。