猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

わたしはおろかで恥知らず、猫心をかけらも理解できない、丸太のように無神経な生きもの

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猫と一緒にお住いのお客様へ
家庭用ファックスの無償点検のお知らせ

きみは正座している。
部屋の片すみで、古いスーツケースを背に。
きみの前には猫さん。
一枚の紙をにぎりしめ、顔を赤らめて猛抗議している。

「どーゆーつもりなのか。まずはそれを聞きたいにゃ」

きみは説明する。
その紙は、数年前にファックス機器の会社から届いたこと。
文面がおもしろかったのでとっておいたこと。
スーツケースに入れて、そのまま存在を忘れてしまっていたこと。

「『当該製品の構造上、猫が製品に乗って繰り返し排尿することにより、まれに発火に至る……』? 」肉球がわなわな震えている。「ファックスの上で……そんなこと、こんなことぜったいしないからっ」

きみはせいいっぱいあやまる。
お怒りはごもっともです、と。
でも猫さんとは100パーセント関係ないのです、と。
こんな通知をおもしろがって何年も持ち歩いている自分は、おろかで恥知らずで、猫心をかけらも理解できない、丸太のように無神経な生きものです、と。

それと同時に、きみは来たるべき決戦について考えはじめていた。
ハイドFCは4月18日の試合に勝利。
これでリーグ戦は残り1試合。週末の第42節を残すのみとなった。

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首位ハイドと2位ハロゲートの勝ち点差は、2。
得失点差を考えると、最終戦に引き分け以上の結果を残せれば、ハイドの優勝が決まる。
とはいえ、そううまくはいかないだろう。
攻撃のことばかり考えてチームを作ってきたせいで、ハイドは引き分け狙いのプランを実行できるほど器用ではないのだ。
さらに、チーム最高の選手で、大けがで離脱中のGKビリー・オブライエン(今シーズンの注目選手参照)も不安要素。最終戦に間に合ったとしても、コンディションは万全ではないはず。ディフェンダー陣もケガだらけ。失点は避けられそうもない。
いっぽうのハロゲートは、ここ7戦で6勝1分と絶好調。下位チーム相手の最終戦もおそらく勝つだろう。
エースのエノク・ムケンディが去って以来、攻撃力はガタ落ちだが、それでも前に出て攻め続けるしかない。

「そもそも、これって点検する意味あるの? だって機械にずーと水分をかけてたら、ふつうにおかしくなるでしょ。この通知で何か変わるわけ?」

きみは思い出す。
エノク・ムケンディといえば、彼、シーズンMVPの最終候補に残っていたっけ。
ハイドから最終候補に残ったのは、リース・グレイ、ジェームズ・ダービシャー、ブライス・ワシの3人。
MVPは、6部リーグの監督たちの投票によって決まる。
もちろんきみにも投票権あり(自チームの選手には投票できないけれど)。
そうだ、ムケンディに投票しよう、ときみはつぶやく。大げんかのすえに移籍されちゃったけど、左ウィングとしては文句なしに良い選手だから。

「だいたい、この手紙を読んだあと、気軽にファックスに飛び乗れると思う? 想像してみて。ジャンプした瞬間にいろいろなことを考えちゃって、うまく着地できなくて、『しまったにゃ』って。そのときの切なさ、やりきれなさを」

ファックスに飛び乗る自分の姿が、きみにはうまく想像できない。
そもそも、この部屋にファックスなんてないのでは……。
きみの想いはふたたび最終戦へ。
アシスタントマネージャーであるハーグリーヴスの提案で、今朝、緊急チームミーティングを開いた。
思いがけず大成功。

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プレッシャーを与えないような言葉を選んで話をすると、選手たちのモチベーションは最高潮に。

「ほんと失礼、ほんとぶれい、もうブロークンハートですっ」

ここまでくれば、技術やフィジカル、戦術以上に、チームの一体感が大事なはず。
そうだ。練習メニューを変えよう。残り一週間は、相互理解を深める「Team Cohesion」を取り入れよう。

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セミプロなので、練習は週に2~3回です。

にゃーにゃーにゃー。
うーんうんうん。
それぞれの想いが、すれ違い、からみ合い、そしてまたすれ違う。
そうやって、今日もまた、ひとりと一匹の夜はふけていくのである。

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