猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

海だ! 山だ! 夏休みだよ本音とーく(上)

f:id:nekostreet221b:20150720023644p:plain

ロンドンのかたすみにあるちいさなパブ。
テーブル席に、ひとりの女性のすがた。
日本出身のスポーツライター、愛里・ハインツ・アドラーである。
黒ビールを飲む彼女のよこには、ホットミルクを味わう猫さん。
ひとりといっぴきによる、ひみつのミーティングがはじまる。

「春だねえ」と愛里。「気持ちいいねえ。ふわっとして、ほわっとして……あー、ねむい」
「いつもねむいよ」と言って猫さんはおおきなあくびをする。
「ところで、ほんとにやめちゃうのかな、きみの監督さんは?」
「昇格できなかったらね。みんなにそう宣言しちゃったから」
そこまで話したところで、とつぜん。
猫さんと愛里は半身の姿勢になり、ブログ読者のほうをむく。
ひとみの色合いがびみょうに変化している。口もと、目もと。表情が、すでにブログの登場人物のものではない。
パブの店主やお客たちが、ゆっくりと背景にとけこんでいく。

「ほんとはあついのです」と猫さん。
「やばいねこれ」と愛里。「ゲームの世界では4月だけど、リアルには夏まっさかりだから」
「このあいだ病院に行ったんだけど、検査よりもアスファルトからたちのぼる熱気のほうが心配だったにゃ」
「どこの病院?」
信濃町にあるだいがく病院」
猫さんが魔法の猫じゃらしをひと振り。
すると、空中におおきな画面があらわれる。
画面にうつし出されるのは、猫さんが書いているブログ。猫さんはそこに、きみの監督キャリアにまつわるできごとをせっせと書き込んでいるのだ(クリスマス、フットボール、そして猫じゃらし①参照)。

-------------------
バロンドール発表!f:id:nekostreet221b:20150720023733j:plain
2016年の幕開けはこのニュース。クリスティアーノ・ロナウドが自身3度目のバロンドールを受賞です。ためしに近年の受賞者を読み上げてみるにゃ。ロナウド、メッシ、メッシ、メッシ、メッシ、ロナウド、メッシ、ロナウドですー。

Jリーグのけっか
f:id:nekostreet221b:20150720023747j:plain
2ステージ制の初年度王者は、鹿島アントラーズ。チャンピオンシップで浦和レッズをやぶっての優勝でした。MVPはアントラーズ柴崎岳。34試合に出場して、10得点12アシスト。

提携先ひとつも見つからなかったよ!
マンチェスター・シティに提携を打ち切られたのは、昨年6月。それいらい、会長のジョー・キッチンに新提携先を探してもらっています。そのこたえがこれ。見つからないって、そのセリフ、今シーズンだけで3度目なんですけど……。うそだと言ってよジョー!

キーン・ブライアンさまさま
絶好調のインサイドハーフ、キーン・ブライアン。点をとる。アシストをする。ビルドアップにも参加。しかも、運動量があって、あるていど守備も期待できる。9月、12月、1月と月間MVPを受賞。マン・オブ・ザ・マッチはいつもこの人です。

説明書はちゃんと読みましょう
豆だいふくをめぐる冒険 punyu(下)であきらかになったあの問題。そう。「リーグ規約を読むの忘れてました問題」ですにゃ。
レンタル契約の延長ができないため、短期レンタルで獲得した選手たちはシーズン途中にさようなら。その全員が上位リーグ出身の強力なプレイヤーという……。とくに、ケガ人があいついだCBとWGは深刻な人材不足に。

独走してみたり転落してみたり
リーグ戦は、ハイドFCとダゲナム・アンド・レッドブリッジFCの一騎打ち。
開幕から首位を独走していたハイドは、年明けに失速。2月にはついに首位の座をあけわたす。上記の契約問題にくわえて、主力がつぎつぎと故障。キーン・ブライアンが長期離脱した時点で、もちこたえられなくなったです。ちなみに、 ダゲナム・アンド・レッドとは、リーグ戦だけでなく、FAカップとFAトロフィーでも対戦。いまのところすべて負けています。とくにFAトロフィー準決勝ではPKを2本とられて2-1で負け。くやしー。

そして運命の最終節へf:id:nekostreet221b:20150720023810j:plain
最終戦を前に、首位ダゲナム・アンド・レッドとの勝ち点差は1。得失点差も1。
勝たなければ優勝はできません。でも、ここで、鉄人FWリース・グレイがけがで離脱。本職CBもひとりだけという状況ですっ。
-------------------

愛里はジョッキを手にとり、よく冷えたビールをぐいぐい飲む。
「つまり」と彼女は言う。「最終戦で勝てなければ2位でシーズン終了。ハイドは昇格プレーオフにまわる、と。そこで勝てなければ昇格はなし。そうなったらきみの監督さんはやめる」
猫さんはうなずく。愛里が身をのりだす。
「ブログっていえばさ。このブログを書いてる人がいるわけじゃない? あたしたちがいまいるこの物語を書いているひと」
はっとする猫さん。
「たしかにそうだにゃ。考えたこともなかった」
「なんで書いてるのかなあ。原稿料をもらえるわけでもないし、匿名だから名前が売れるわけでもない。それに、ブログを読むひとって、ふつう『情報』を求めてるわけでしょ。このブログにはそういうのがない。『ない』というか、すごくうすい。読者対象となる層もせますぎるし……。読んでくれる人ってどれくらいいるのかな」
さっそく猫じゃらしでしらべてみる。
その結果、月間PVは約4500だった。
その後も、うにゃうにゃと話し合う生きものたち。とりあえず、きっとへんな人なんだという結論にたっした模様。
猫さんはミルクをぺろぺろ。「たぶん、アクセス数とかそういうことじゃないんだよ。へんなひとだから」
愛里はビールをごくごく。「じぶんのなかにある物語を物語りたいだけなのかもね。へんなやつだから」
「にゃ。食べもののお店でも、訪れたひとの10人中9人に『まあ、いいかも』と思われるより、ひとりでもいいからほんとうに好きになってくれるひとがいたほうが、うまくいくらしいし」
「でもさ」愛里はまたビールを飲む。冷えてるわー。「それはお金をとって商売している店の話だから。こういう趣味の話とはちがうでしょ」
「いや、趣味ではないんじゃない?」
「趣味でしょ」
「うーん」と猫さん。「たとえば、すごくおもしろい試合とか映画を見て、その感動をだれかに伝えたい人がいる。『こんなすごいプレーがあった。こんなにすばらしい映画だった』と恋人や友達や家族に語りたいひとがいる。試合観戦や映画鑑賞は趣味といえるかもしれない。でも、自分の心のなかで脈打つ熱いきもちを、伝えたい、話したい、語りたい。そんな、いてもったってもいられないような衝動は、趣味ではないような気がする。音楽を聴いたりゲームをすることは趣味といえるかもしれないけど、その曲のすばらしさ、そのゲームのおもしろさやたのしさ。それをだれかに何らかの形で伝えることは、またべつのことというか。それを表現するのに『趣味』ということばは軽すぎるよ。自分のなかにある物語を語り伝えたいという想いは、だれもがもっているもので、それがそのひとのカタチそのものなんじゃないかな」
「ふむ」と愛里。「その衝動が出発点であるかぎり、それは趣味とはべつのものってこと?」
「たぶん」
「で、それが人間にとってとてもたいせつなものだってことね」
「あちきたち猫にとってもね」
「犬さんとか、おさるさんにとっても」
「羊さんとか、わかめさんにとっても」
「わかめは物語らないんじゃない?」
「いや、海のなかで見ると、あのゆらゆら感はすごいです」

愛里はそれについて考えてみる。しばらくのあいだ、ちんもく。
「どっちにしても、原稿料もらえる仕事で物語ればいいじゃん。 あたしらからみればいい身分だねーって」
「いまはFootball Managerの物語だけを書きたいんだよ、きっと。それに、原稿料っていうけど、スポーツの、フリーランスの稿料ってそんなに高くないんでしょ」
よくぞ聞いてくれましたっ。
愛里の目がきらりと光る。
「ありえないくらい、はんぱなく、とびっきりに、安い。これで生活なんてふつうに考えて無理だね。山にこもって仙人になったほうが食べていけそう」
「にゃんとー」
「うーん、ビールがおいしいっ。あ、カウンター席に、赤いジャケットをきた男いるでしょ。さっきからこっちをちらちら見ている人。江戸川さんっていう日本の編集者。出張でこっちにきたって聞いてる。ちょっとつれてきてよ。ごうもんして本音をはかせようよ」
「じんもん?」
「いや、ごうもん」
たちまちのうちに、江戸川さんはスマートフォンと同じ大きさまで縮んでしまう。
おどろく間もなく、愛里たちのテーブルのうえに転送。
「あ、えっ、がが……」
あたりまえのことだが、混乱しているようだ。
目を細め、江戸川さんを見下ろす愛里。上気したほおに手をやり、ほほえみかける。
「江戸川さん、おひさしぶりです。おやすみのところ申し訳ないのだけど、知っていることすべてあらいざらい話してもらうから。そうじゃないと、この猫さんにかまれちゃうゾ」
腰をぬかす江戸川さん48歳。
まゆを八の字にする猫さん(かみませんにゃ)。

ど、どうなってしまうのかー。