クリスマス、フットボール、そして猫じゃらし②
英国で迎えたクリスマス。
猫さんからの贈り物は、きみの成長をつづった猫ブログ。
ひとりと一匹は、身体を寄せ合うようにしてパソコン画面をのぞきこんでいる。
心からのよろこび。
だが、その中にひとつ不安があった。
どうしても、ある考えが頭から離れようとしない。
きみは思う。
お返しのプレゼントどうしよう……。
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というわけで、ブログの続きだにゃっ
・じゃいきり
1871年創設のFAカップ。歴史と伝統に彩られ、日本の天皇杯の成り立ちにも影響を与えたこの大会で、きみの名声はイングランド全土にとどろいた(かもしれないにゃっ)!
予選で格上チームをつきつぎに破り、本選に進出。 1回戦で3部のドンカスター・ローヴァーズと対戦すると、ハイドのメッシことリース・グレイが大活躍。6部のチームが3部所属チームを破るという、ジャイアント・キリング(大番狂わせ)を演じましたっ。
さらに、2回戦の相手は3部のサウスエンド・ユナイテッド(TV中継もあった!)。リース・グレイの振り向きざまのスーパーミドルもあり、これを撃破。2戦連続で圧倒的な戦力差ひっくり返したのです。ぱちぱちぱちー。
・気になるFAカップ次戦は――
年明けに行われる3回戦では、チャンピオンシップ(2部)のダービー・カウンティとの対戦が決定。さすがに2部が相手だと……相手のホームだしちょっと無理かもだけど、あきらめちゃダメ絶対ダメ。
・栄光への道
6部リーグで首位あらそい。もうひとつのカップ戦・FAトロフィーでも順調に勝ち進んでます。目先の勝利にとらわれず、どんな強敵が相手でも目指すべきスタイル(「こわいのは嫁だけ、ふつうに猫と話します」参照)を貫いて、シーズンを通して自信を深めていったのがよかったのかもにゃ。結果そのものよりも、そういう姿勢を誇りに思います。まあ、リース(・グレイ)は無理やり偽の9番をやらされて大変そうだけど(笑)。
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きみは感じる。隣にすわる猫さんの視線を。
ねえ、どんなプレゼントをくれるの、ねえねえねえ。
まるでそう言っているかのように、期待に満ちた猫さんの瞳がくりくり動く。
きみにあるのは、一本の猫じゃらし。
用意できたのはそれだけだった。
監督の年俸は、わずか150万円。
しかたなくアルバイトをはじめた。
週3回。マンチェスターのグラナダ・スタジオ(NHKで日本版が放送された、ジェレミー・ブレッド主演のTVドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』が撮影された場所)からほど近い、ちいさな書店。
オーナーがマンチェスター・シティ(ハイドの提携先)のファンだったため、給料を含めていろいろと融通をきかせてくれた。
それでもやはり生活はきびしい。
アルバイトを増やすべきなのはわかっていたが、時間が惜しかった。できる限り、ぎりぎりのところまで、フットボールのことだけを考えていたかった。練習や分析に役立つと思って、アップルのタブレットまで買ってしまったというのに。
わがままだということはわかっている。
自分には猫さんに対して責任のようなものがあり、それを果たさなければならないこともわかっていた。
――――いや、本当は、ぜんぜんわかっていなかったのかもしれない。
だからこそ、クリスマスの夜にきみの手には猫じゃらししかないのだ。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
猫さんに向き直ると、きみはそのちいさな生きもの瞳をまっすぐに見つめた。
ひざまずき、頭をたれ、
せいっぱい神聖な面持ちで、
心からの愛情をこめて、
シェイクスピア劇の役者のようにうやうやしく猫じゃらしを差し出す。
貧乏監督の、クリスマスのお芝居。
笑われなければいいのだけれど。馬鹿にされなければいいのだけど。
でも、きみにはわかっている。
これがいまの自分。差し出せるすべてのもの。笑うはずがない。馬鹿にされるわけがない。
だってきみの猫さんだから。
きみの手に、やわらかな肉球が触れる。
メリー・クリスマス。
きょうがあなたにとって、しあわせな一日でありますように。
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エピローグ(おまけ)
どれくらい時間がたっただろう。
顔を上げると、猫さんの眉が八の字になっていた。
「ばかなの?」と猫さん。
えっ。
「これただの猫じゃらしじゃないですかっ」
ええっ。
「ばかばかばかこの甲斐性なしの超貧乏かんとくー」
ええええっ。
「にゃおーん。にゃおおおおーん」
ご、ごめんなさい。泣かないで……。
でも最後にはゆるしてもらえましたとさ。
にゃにゃにゃっ。