猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

オー、キャプテン! マイキャプテン! ~いまを生きる

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ダウンタウンのコーヒーショップ。
窓ぎわの席で、トニーとウィギンスが話をしている。
ウィギンスはすこし怒っている様子。
「トニーさん、ほんとにこれでいいの?」
「くどいな、おまえも」
「だけどさ」
「しかたねえだろ。昇格できなかったらうちをやめるって言ったんだ。で、負けた。それでも必死にたのめば残れた。それをしなかったのは、気持ちがもう新天地に向いてるからだろ」
「そうじゃなくて、見送りにいかなくていいんですかってこと」
トニーはうつむく。手のひらをとじて、ひらいて。自分の指をじっと見つめる。「おれなんかが行ってどうすんだよ」
「準備してるくせに」
「してねえよ。だいたい列車の時間も知らねえし」
「14時でしたっけ」
「13時55分、マンチェスター・ピカデリー発ロンドン・ユーストン行き。所要時間およそ2時間。5番ホームだ」
「知ってるじゃないすか」
「おまえ、ほんとうるさいね」
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昇格プレーオフセミファイナル。
対戦相手はフォレストグリーン・ローヴァーズだったにゃ。
ホーム&アウェイでおこなわれるプレーオフ初戦。
攻撃のリズムががたがたで、PKを2回もとられる不運のなか、相手のオウンゴールでどうにか勝利(1-0)。
勝負は第2戦へ。

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最終戦のメンバーから、さらにアンカーが離脱。
ミスを連発したふたり――無理やりセンターバックをやらされているネイサン・バーク、試合勘がほとんどない左ウィング、コナー・ヒューズ――を先発で起用せざるをえない状況。
不安がてきちゅうしたのは前半15分でした。
コーナーキックの際に、コナー・ヒューズがペナルティエリア内でファール。PKを与えてしまったです。

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これを決められて1-0。初戦とあわせて合計スコアが1-1に。
勝負はPK戦にもちこまれたのでした。

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先行はハイド。最初のキッカーはごぞんじキーン・ブライアン

キーン・ブライアン     〇
マーティン・サミュエルソン ×
リース・グレイ       ×
アンディ・ロビンソン    〇
サム・ゲインフォード    〇

先行のハイド、5人目のゲインフォードが決め、3-3。
後攻のフォレストグリーン。5人目のキッカーはサム・ウェッジベリー。ウェッジベリーの蹴ったボールは――。

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ゴール右隅を突きさし、ゴール。
反動でころがり出るボールをまえに、くずれ落ちるGKグリフィス。
ハイドは敗れさり、フォレストグリーンが昇格プレーオフファイナルへ進出しました……。
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ハイドというチーム、ハイドという町。
猫さんを抱いて、スーツケースをひきずり、バス停へ。
バスが動きだすと、よごれた窓ガラスを手でふいて、その姿を目に焼きつける。
猫さんがきみの肩にのってくる。ひとりといっぴきで、おなじものを見て、おなじことを想う。
はじめてチャンスをくれたこの町に、さよならだ。

駅ではちょっとしたサプライズがあった。
20、いや30人ちかくいただろうか。
ファンや選手がホームで見送りをしてくれたのだ。
トニーがいる。ウィギンスがいる。リースやキーン、リアムのすがたもみえた。
ファンを代表して、トニーが自作の詩を朗読する。
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おれは思うんだぜ
手段とか目的とかってなんなのよ
FCユナイテッド・オブ・マンチェスターって知ってるか
マンチェスター・ユナイテッドのファンが集まって
2005年に作ったチームなんだぜ
だれもが知るあのチームはビッグになりすぎた
チケットがたかくなりすぎて、むかしからのファンはもう
試合をみられない。だから作ったのさ
FCユナイテッド・オブ・マンチェスター

年会費は1000円ちょっと
それでひとり1票。経営にもくちを出せる
チケットの値段はおさえられ
払うよゆうのあるやつだけおおく払う
それがチームのモットーで
2015年には6部にあがってきたんだぜ
だけど いいかいあんた?
勝つことだけがおれらの願いじゃない
昇格だけがおれらの願いじゃない
この町 この場所 この仲間
このチームをただ愛したい
まいばんスタジアムに足を運んで
ただ応援したい
パブとかカフェとか家のなかとか
このチームの話をしていたい
ずっとずっとそうしていたい

ポゼッションもカウンターも
手段にすぎないっていうけれど
試合に勝つことでさえ 優勝することでさえ
ひとつの手段にすぎないんだぜ
クラブが存続し 愛されること
ずっと愛され続けること
それがほんとうの目的で
それこそがおれらにとっての勝利なんだ

なにが言いたいのかって?
いいかい、あんた?
ええっと ええっと
昇格うんぬんとか
あんたあんまり気にすんな
勝つときもあれば負けるときもある
でもチームが愛され続けるなら
さいごにはおれらみんなが勝つんだよ

いつかまたもどってこいよ
おれらの愛するこの町へ
エールを送るよ
ここにとどまり続けるおれらから
通り過ぎ 羽ばたいていく監督さんへ
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トニーの指揮で、みなが歌いはじめる。
オー、キャプテン! マイキャプテン!

公式サイトのインタビュー。
そこで、「好きな映画は?」と聞かれたことがあった。
きみのこたえは、"Dead Poets Society(いまを生きる)"。
トニーはそれを覚えていてくれたのだろう。
学校を追放されることになった、教師キーティング(ロビン・ウィリアムズ)。
荷物をまとめて教室を出ようとしたとき、生徒たちが勇気をふりしぼって立ち上がる。
ひとり、またひとり。
机のうえに立ち、ホイットマンの詩を引用してよびかけるのだ。

O Captain! My Captian!

きみはひっしに思い出そうとする。
あのとき、最後に、キーティングはとてもたいせつなことを言った。
あれはなんだったろう?
3番目に立ち上がる生徒の、決意の表情が好きだったなあ。
鼻たれの気弱な生徒が立ち上がってくれたときもうれしかった。
あんなふうに、ほんとうに大事なときには立ち上がれる人になりたかった。立ち上がる順番は何番目でもいい。ただ立ち上がりたかった。
そう。そうだ。
キーティングは彼らにことばをかけたのだ。
どんなことばを?
列車が動き出す。
トニーたちの姿がみえなくなったころ、きみは思い出す。
キーティングは、自分を慕ってくれた生徒たちにこう言ったのだ。

Thank you, boys. Thank you.

みんな、ありがとう。
ありがとう。

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