猫街221b - Football Manager -

ゲーム、本、音楽や映画。そこに日常のささやかなできごとを絡め、物語仕立てに書いています。いまは「Football Manager」というゲームのプレイ日記が中心です。

FM2015

契約延長のゆくえ、ウィルコ、アイラブユーなんだぜ

ダウンタウン近くのコーヒーショップ。窓ぎわの席で、スマートフォンをいじる若者がいる。刈り上げた髪、マンチェスター・シティのTシャツ、benchのジーンズ。ハイドFC優勝の瞬間にも居合わせた、あのウィギンスである。からんころん。からんころん。扉のカ…

オフシーズン狂想曲、眠れぬ夜はこの歌を聴け

猫という生きものはよく眠る。床のうえで、ふとんの中で、押し入れのすみで。いつもどこかで、こんこんと寝入っている。うらやましい、ときみは思う。オフシーズンは眠れぬ夜が続くから。きみは1年契約。契約延長の話し合いはすでに2度行われた。チームに…

かぼちゃの馬車で舞踏会へ② ~愛里ふたたび!~

時計のはりを動かそう。くるりくるりと、すこしだけ過去に。ハイドFCが優勝を決めた日、その試合後のこと。愛里はちいさな生きもの――猫さん――を肩に乗せて歩いていた。向かう先は、試合会場の裏手にある、チームバス。迷子になった猫さんをチーム関係者に届…

かぼちゃの馬車で舞踏会へ① ~魔法文字で猫っとび~

ちいさな洗面台のちいさな鏡。鏡が映し出すのは、鼻歌を歌いながら服を選ぶきみの姿。明日は待ちに待った日。王子さまがお城でひらく、舞踏会の日。もちろん、きみはシンデレラでもヘラクレスでもない。お城の代わりに、市民ホール。王子の代わりに、6部リ…

何かが達成されようとする、その瞬間に② ~虹のように走れ~

ちいさくガッツポーズする愛里。そのとなりで、JK23(本名ジェームズ・カイル)はアイデンティティの危機に直面していた。記者歴30年。考えてみれば、こんなふうに、正面から、面と向かって否定されたのは久しぶりのことだった。身体の奥でなにかが揺れてい…

何かが達成されようとする、その瞬間に① ~愛里の祈り~

最終節。勝てば優勝。引き分けでも優勝。「だが、負ければ準優勝だ」トニーがウィギンスに説明する。「2位のハロゲートはきっと勝ってくるからな」ウィギンスはトニーの甥っこだ。昨年の夏に高校を卒業して、それから就職も進学もせずぶらぶらしている。今…

わたしはおろかで恥知らず、猫心をかけらも理解できない、丸太のように無神経な生きもの

猫と一緒にお住いのお客様へ家庭用ファックスの無償点検のお知らせきみは正座している。部屋の片すみで、古いスーツケースを背に。きみの前には猫さん。一枚の紙をにぎりしめ、顔を赤らめて猛抗議している。「どーゆーつもりなのか。まずはそれを聞きたいに…

東の風が吹いてきたね、ワトスン

「東の風が吹いてきたね、ワトスン」「違うだろう、ホームズ。とても暖かいよ」「ワトスンときたら! この有為転変の時代にあっても、きみだけは変わらないね。でもやっぱり、東の風が吹いてきたんだよ。英国にはまだ一度も吹いたことのないような風が。冷た…

夢のおわりと魔法の猫じゃらし

高く、広い、冬の空。久しぶりの、おだやかで温かな一日。練習場脇のベンチで、猫さんがスフィンクス座りで本を読んでいる。そこに近づく男がひとり。「こわいのは嫁だけ、ふつうに猫と話します」に登場したトニーだ。「よう」そう言って、トニーは猫さんの…

夢の町、夢の箱、ハードディスクを破壊せよ

……声が聞こえる。さ〇――×△――……軽やかで、やわらかな響きを持つ、不思議な声。さ――あ×――……最初は遠くかすかに、しだいに近く確かに、空気をゆらゆらと揺らしながら耳元へ。「さあさあさあ」いや、ゆらゆらとかそんな生易しいものではない。吐息を感じるほども…

クリスマス、フットボール、そして猫じゃらし②

英国で迎えたクリスマス。猫さんからの贈り物は、きみの成長をつづった猫ブログ。ひとりと一匹は、身体を寄せ合うようにしてパソコン画面をのぞきこんでいる。心からのよろこび。だが、その中にひとつ不安があった。どうしても、ある考えが頭から離れようと…

クリスマス、フットボール、そして猫じゃらし①

英国ではじめて迎えるクリスマス。猫さんがきみにすてきなプレゼントを用意してくれていた。監督としての歩みを、ブログを作ってまとめてくれていたのだ。きみは心打たれる。ベイカー街で拾われた猫の多くがそうであるように、猫さんもパソコンとスマートフ…

猫さんへの手紙② ~監督には2種類しかいない

監督には2種類しかいない。クビになった監督と、これからクビになる監督だ。――ハワード・ウィルキンソン――右手の肉球で、ホットミルクがたっぷり入ったマグカップを左手の肉球で、きみからの置き手紙をがっしりつかむ。「前回からの続きだにゃ。ごくごく」-…

猫さんへの手紙① ~選手がほんとこわいです

猫さんが目覚める。きみたちが暮らすフラットの一室で。長かった夏も終わり、秋は深まりをみせていた。猫毛を身にまとっているとはいえ、すこしだけ肌寒い。飼い主であるきみの姿が見えず、猫さんはとまどう。机に飛び乗ると、朝食の横に置き手紙があった。…

今シーズンの注目選手

前話に続いて、ハイドFCの練習場。いままさに、今季の注目選手が告げられようとしていた。全員紹介すると芸がないので人数をしぼるべきか、とトニーが悩むうちに、午後の練習は終わっていた。となりで眠っていた猫さんも、いつのまにか姿を消している。夕…

愛が『あり!』なのです

夏の日の夕暮れ。練習場のベンチに、猫さんが横たわっている。夕陽を受け、きらきらと輝くオレンジ色の猫毛。そのとなりで、「こわいのは嫁だけ、ふつうに猫と話します」に登場したトニーがもうれつな勢いでしゃべっている。「なーに考えてんだ、あの新米監…

ごめんにゃ、リース

ハイドFCは、マンチェスター・シティ(以下、シティ)と提携関係にある。シティといえば、いまや欧州を代表するメガクラブ。2013-14年シーズンのイングランド・プレミアリーグ王者でもある。提携のきっかけは、数年前にシティから資金援助を受けたこと。ハイ…

こわいのは嫁だけ、ふつうに猫と話します

ハイドの本拠地、Ewen Fields。その駐車場をふたりの男が歩いている。どちらもフットボール選手のようだ。駐車場を半分ほど横切ったところで、若いほうの選手が口を開く。「言うまい言うまいと思ってたんスけど……」年上のベテラン選手は、口笛を吹くのをやめ…

大人になれよとだれもが言う

目指すべきサッカー、思い描く理想のフットボール。それは新米監督のきみにもある。問題は、強固でソリッドな、目の前の「現実」だ。ハイドFCは6部リーグのアマチュアクラブである。もちろん、予算も人員もぎりぎり。まずいことに、この環境をありがたく思…

新米監督と猫さん

イングランド北西部の都市、マンチェスター。 その近郊に人口3万人程度のちいさな町がある。 町の名は、Hyde(ハイド)。 イングランド6部リーグに所属するアマチュアフットボールクラブ「Hyde Football Club」のホームタウンである。 彼らが試合を行うス…

The Adventure of the Football Manager 2015

ある晴れた朝。熱い紅茶を入れたところで、見知らぬ男がきみのアパートを訪れる。おはようございます、と男は礼儀正しくあいさつする。自分は悪魔であり、目的はきみの「時間」だという。「魂なんてあやふやなものはいただきません。いまこの瞬間から、きっ…